だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
 それから三日が経った頃。帰宅してくつろいでいた私のもとに、和也さんのお母様から電話がかかってきた。

『紗季さん。今いいかしら?』
「はい」

 和也さん自身が母親を避けているのもあり、私も彼女とはあまり関わっていない。というか、彼は私とお母様が接触しないように配慮している節がある。

 初めてお会いした時のインパクトが強過ぎて、彼女に対して苦手意識を抱いている。今日はいったいなにを言われるのだろうかと、内心で恐れた。

『ラ・パレット・デ・サヴ―ルに、今度何人かの友人を招待してお食事会をしたいのだけど』

 予約を取るのに融通を利かせてほしいという話だとピンとくる。

 同じようなお願いは、これで三回目になるだろうか。和也さんに言うまでもないと黙っているが、少し気が重い。 
 兄の店はわざわざ海外から著名人がお忍びで来るほど人気となり、現在は半年ほど先まで予約が埋まっている。
 ただ仕事がらみで飛び込みで予約を頼まれることもあるため、毎日ではないがひと枠空けておく日もあると聞いている。希望通りの日にちにならないかもしれないが、予約を取るのは可能だろう。

『人数は五人。今週末のランチの時間帯でお願いしたいわ』

 以前はもう少し先の予定でお願いされていたが、今回は近い日にちを指定される。さすがに無理かもしれないが、確認もしないまま断れば角が立つ。
 できれば、彼女ともよい関係を築いていきたいという気持ちはある。だから兄に都合を聞いてみるつもりだ。

 ただ、これまでのお母様の言動を考えるとわずかに躊躇もする。
 身内だから急なお願いにいつでも対応できると思われるのは困るし、それによって迷惑をかけるのは兄だ。要求をさらにエスカレートされることがあれば、さすがに待ったをかけざるを得なくなるだろう。そうなれば、お母様を怒らせてしまうのが目に見えている。

「兄に聞いてみますね」
『お友達も楽しみにしているの。返事はすぐにお願いするわよ』

 この口ぶりだと、誘う相手にはすでに兄の店でと話しているのだろう。

「わかりました。この後すぐに兄に連絡を入れますから」

 言いたいことはあるけれど、それはぐっとのみ込む。通話を切って、すぐさま兄にコンタクトを取った。
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