だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
『ああ、紗季か。元気でやってるか?』
「うん。あのね、兄さん。ちょっと話があるんだけど」
『あまり、いい話じゃないのか?』

 私の口調になにかを察したようで、兄が心配そうに尋ねてくる。

「あの、ね。和也さんのお母様が、週末に兄さんのレストランでランチ会をしたいようなの」

 無理を言っている自覚はあり、申し訳なさに歯切れが悪くなる。

「いつもごめんなさい。人数は五人って言われたんだけど、予約ってとれる?」
『週末の昼だな。ちょっと待ってろ』

 迷惑そうな素振りも感じさせず、兄は気安い調子で返してきた。
 通話が保留音に切り替わる。そっと瞼を閉じて、じりじりとしながら返答を待った。

『待たせたな。土曜ならなんとかなりそうだが、それでどうだ?』
「折り返しお母様に伝えるけど、たぶん大丈夫だと思う。無理を言って、本当にごめんなさい」
『なにを言ってるんだ、紗季。かわいい妹の頼みなら、なんとしても叶えるに決まってるだろ』

 兄が笑ってそう返してくれるから、罪悪感がわずかに薄れる。

「ありがとう」
『ああ。こっちも、いろいろと事情は察しているからな』

 お母様が和也さんと私との結婚を認めてくれた際のやりとりは、兄に知らせている。だから、彼女の性格もある程度わかっているのだろう。

『紗季が気に病む必要はないから。今後も、なにかあったらいつでも連絡してこいよ』
「うん。ありがとう」

 兄との通話を終えて、お母様に折り返す。

『それで結構よ』

 求めていたわけではないけれど、兄に対してお礼や急なお願いになってしまったお詫びのひと言もなかったのが悲しかった。
でも、それを求めても仕方がないと瞼を伏せる。
< 97 / 141 >

この作品をシェア

pagetop