だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
 当日になり、ランチ会は満足してもらえただろうかと気にしながら過ごしていた。

 過去二回の食事会で、お母様は料理をいたく気に入っていたと兄から話を聞いている。きっと今日も大丈夫だと思うが、どうしても不安が付き纏う。

 夜になり、お母様から電話がかかってきた。

『本当に、素敵なお店よね。料理も毎回違ったものが出てくるし、どれも美味しかったわ』
「ありがとうございます。兄にも伝えておきますね」

 なにも問題なく、食事会も満足してもらえたようでほっとする。

『招待した皆さんも、本当に喜んでくださって。さんざん感謝されたわ』

 弾んだ口調に、相当鼻が高かったのだろうと察する。
 できればその感謝を、お店の人たちに伝えてほしい。

「それはよかったです。兄をはじめスタッフも、そんな反応を聞けば喜ぶと思います」

 兄としても、妹の嫁ぎ先の人間をもてなすのはかなり気を使ったに違いない。後で、お母様のこの様子を伝えてあげようと思う。

『でね、紗季さん。私、もったいないと思うのよ。あんな素敵なお店が、あの一店舗だけだなんて』
「え?」

 話が妙な方向へ進みだしたと、思わず眉間にしわを寄せる。

『あなたも、そう思わない?』
「あのお店は、兄が何年もかけて作り上げてきたもので、支店を出さないというのもこだわりなんです」

 とことん利益を追求するのなら、複数店舗を構えるべきなのだろう。
 けれど兄は、あのお店に関してはそういう考えをいっさい持っていない。
 自分のこだわりのすべてをつぎ込んだ、唯一無二のお店。それがラ・パレット・デ・サヴ―ルなのだ。当然シェフをはじめとしたスタッフも、同じ志でいる。
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