だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
『そうはいっても……ねえ』

 含みを持たせたその物言いに、苦いものが込み上げてくる。

 兄のお店を気に入ってもらえているのはうれしいが、踏み込んだ発言は受け入れられない。
 和也さんの事業と手を結んだのも、兄にとっては大きな決断だったはず。これまで貫き通してきた信念を曲げるのは、容易でなかっただろう。

 それが私の結婚と関係しているのだとしても、自分がなにかを言うつもりはない。
 和也さんは、兄を一方的に利用するような強引なことはしないと確信している。
 それに兄だって、相手の都合に振り回されるだけの人ではない。きっとお互いに合意できる着地点を見つけているはずだ。
 お互いに納得しているのなら、それでかまわないと思えるようになった。
 
 けれど、まるで関係ない第三者からの話となれば別だ。

「兄には、そういう意見もあると伝えさせてもらいます」

 応えるかどうかは、兄次第。伝達はしても、私からなにかを働きかけるような発言は絶対にしない。そうやんわりと幕引きにかかる。

『絶対にもったいないわよ』

 話はここまでだと暗に示したが、お母様も引かなかった。
 彼女の要求を明確にされたら、私がどう断っても波風が立つだろう。
 やんわりとはいえ、こうして拒否している時点で不快に感じているかもしれない。

「すみません。来客があったので、ここで失礼します」

 さらに具体的になにかを言われる前に、嘘の理由をでっち上げて逃げるように通話を終えた。




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