迎えにきた強面消防士は双子とママに溺愛がダダ漏れです
 日頃から厳しい訓練を行い、こういう事態に備えてありとあらゆる知識を詰め込んでいる彼ならば、被害を最小限に抑えて消火できるはずだと信じている。

 頑張って、橙吾さん。

 悲しいわけでも不安なわけでもないのに涙が込み上げて溢れた。

「危険ですので、避難してください!」

 状況が思わしくないのかもしれない。これまで見守っていた私たちのところに消防隊員が来て、現場から立ち退くように声を張り上げる。

 ここで様子をうかがっていたのを知ったら、橙吾さんはきっと私を叱るだろう。迷惑をかけるわけにはいかない。あとは部屋に戻ってニュースで状況を確認しよう。

 踵を返し、持っているビニール袋を持ち直す。緊迫した空気のなかではまったく気にならなかったのに、現実に戻ってきたら手のひらの痺れがきになった。

 ずっと持っていたのだから、そうなるよね。

 防寒対策をしっかりしておいてよかった。おかげで寒さは感じていない。

 ……知識としては頭にあったけれど、働く姿を目にして、改めて橙吾さんの仕事がどういうものなのか身に沁みてわかった。

『橙吾から生きがいである仕事を奪うなんて、できないですよね』という山科さんの言葉が脳裏に響く。
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