迎えにきた強面消防士は双子とママに溺愛がダダ漏れです
「共倒れしたら大変だろう。それにパティシエは重労働だと、知り合いに聞いた」

 ありがとうございますと言いたかったのだが声にならず、代わりに小さく頷いた。

 過去に交際したのは同年代の人だけだし、店長を除いて学生時代から今日まで大人の男性と接する機会はほぼなかった。

 彼についてなにも知らないのに、包容力を感じるし、話していて安心する。会話が途切れても気にならないくらい橙吾さんがまとう空気は柔らかい。

「今日はお休みですか?」

「昨日は非番で、今日は公休日なんだ。消防の仕事をしている」

「消防士さんなんですね」

 じゃあ、あの燃え盛る炎のなかで人命救助を……。

 過去の出来事や、さまざまな想いが大波のように押し寄せて、胸がざわざわと騒いで急に落ち着かなくなる。

 できれば思い出したくないし、ニュース番組ですら火災現場は目にしたくない光景だ。それなのに現場の最前線で活動する彼とこうして歩いているなんて。

 これもまた、彼とは縁があるというべきなのか。

 暗くなった気持ちを切り替えて、口角をぐいっと上げて隣を見上げた。

「大変なお仕事をされているんですね。同僚の方は、その後経過はどうですか?」

「順調に回復しているよ。それに俺自身は、仕事が大変だと感じたことはない」

「すごいですね……」

 ありきたりな誉め言葉に聞こえただろうけれど、私としては心の底からの本音だ。
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