迎えにきた強面消防士は双子とママに溺愛がダダ漏れです
 私は事故があってから高所恐怖症になったし、遊園地という場所自体が苦手になった。のちに部品の一部に不具合があったと説明されたので、信用できなくなったのもある。

 レール横の階段を歩いて避難したが、その際に男性がパーカーの裾で血を拭ってくれた。前が見づらくて怖かったのですごくありがたかった。

 そして男性の手が血で真っ赤に染まっていて痛々しかった光景はまざまざと脳裏に焼きついている。

『大丈夫だよ。落ち着いて、ゆっくり歩こう』

 出血していない方の手を、私の頭にそっと置いて撫でてくれたんだよね。

「あのとき君を助けたかったのに、なにもできなくて。やりきれない気持ちだった」

「そんな、私は……」

「駆けつけた消防隊に桃花さんが救助されるのを目の当たりにして、俺もこういうときに人の助けになりたいと思ったんだ。それから消防士を志すようになった」

 口を挟む余地がないくらいに語る橙吾さんの瞳は、芯の強さを感じさせた。

 パーカーを貸してくれた男性の存在がどれほど私に安心感をもたらしてくれたか、うまく伝えられたらいいのに。
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