迎えにきた強面消防士は双子とママに溺愛がダダ漏れです
「お持ち運びには、どれくらいのお時間がかかりますでしょうか?」

 こちらの問いかけに顔を上げた男性は、視線を逸らして考え込んでしまった。

 大体の目安でいいのだけれど。

 真面目な性格か、もしかしたらこういう場に慣れていないのかもしれない。

「すぐそこの常盤総合病院まで、どれくらいかかりますか?」

 聞き返してきた男性はいたって真剣な面持ちでいるので、なんだか可愛らしい人だなと自然と頬の辺りが緩んだ。

 徒歩で行ける距離ではないので、おそらく車で移動するはずだ。

「お車でしたら十分ほどでしょうか。保冷剤をお入れしますが、なるべくお早めにお召し上がりになってくださいね」

「そうですね。美味しいうちに食べます」

 多くのお客さまが「はい」という返事だけで終わるやり取りなので、思いがけない返答をもらって胸の奥底が熱く泡立った。

「ありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいです」

 私の笑みに、男性は柔和な笑顔を返してくれた。

 私が品物を箱詰めしていると元気な声が店内に響き、視線だけ動かすと老夫婦の接客を終えたスタッフが、楽しそうに笑いながら子どもと母親と対話している。

 普段は厨房にこもっていることが多いので、こうして直接自分の作ったものを持ち帰ってくれる姿を目にできることに幸せを感じる。
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