幽霊姫は止まれない!
「エ、エヴァ様! 今日のは何なんですか、そのっ、詳しく聞きたいんですけどもっ!」
 その日の訓練を終えたオスキャルと一緒にリンディ国で丸まる借りている宿まで戻った私たち。部屋に戻るとすぐに頬をじわりと赤らめたオスキャルにそう詰め寄られ、『こんなに顔を赤らめるなんてやっぱりオスキャル、ソードマスターの中で唯一モテてないんだわ』なんて失礼なことを考える。

(これじゃ、イェッタを負かす前に偽の恋人ってバレちゃうんじゃない?)
 そんな考えに思い至った私は、自身の顎に指先を添えながらオスキャルへと向き直った。

「ちょっとオスキャル。ちゃんと恋人っぽくエ~ヴァリンッて呼んでみなさいよ。私もオスキャルのこと、キャルキャルって呼ぶから」
「やめてください、俺は怒れる文鳥ですか? 騎士の尊厳が壊される」
 さっきまで顔を赤らめながらもじもじとしていたオスキャルが、私の言葉を聞いた瞬間表情を消す。無、というよりむしろ氷点下で氷漬けにでもなったかのように彼の瞳から光が失われたのを見て、私はムスッと唇を突き出した。

「なんでよ、いいじゃない。減るもんじゃないし」
「尊厳が減り精神もすり減ってますけど」
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