幽霊姫は止まれない!
 ◇◇◇

 ──そしてやってきた夜会当日。

「どうしてあんな約束するんですか!」
「ガタガタ言ってないで覚悟を決めなさい。それとも伯爵家ではダンスひとつ教えないの?」
「教わりましたよ、教わりました! 八歳の時に!」
「なら完璧ね」
「忘れとるわッ!」
 扉の向こうでギャーギャーと喚くオスキャル。きっと今頃頭も抱えているのだろう。
(そんなこと、見なくても目に浮かぶんだから)

 イェッタから聞いたオスキャルは、差し入れを持ってくる令嬢に対し当たり障りのない程度でしか応対をしないこと。
 決して冷たくはないが壁を感じるとも言っていた。
(それと同時に、差し入れの内容がたまごサンドなら、騎士仲間と一緒に笑顔で頬張る様子が見れるとも言っていたわね)
 そのギャップが可愛いのだと言っていたけど。

(本当のオスキャルはこうやって喚いて嘆いてちょっと不憫なところがいいんだから)
 きっと私だけが見れるその特権にくすりと笑みがこぼれた。

「苦しいところはございませんか?」
「えぇ。平気よ」
 優しい声掛けとは裏腹にキリキリとコルセットを締める侍女にこくりと頷く。
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