幽霊姫は止まれない!
 何しろボクは美しい。彼の恋人がボクに惚れてしまう可能性だってある──そう、思っていたのだが。

(ふぅん。まさか彼女の瞳にすら映らないとはね)
 彼女がボクへ向けるのは好奇の視線のみ。
 特別な視線はすべてオスキャル卿へと向けられていた。

 それ自体は悲しき火種を生まなくて喜ばしいことなのだが、それと同時にボクの心に小さな違和感を残した。
 彼女の瞳に映るのがボクではないことが、少し悔しい、なんて。彼女から手渡されたハンカチを気付けばぎゅっと握ってしまう。

 もしこのまま妖精姫と対面を果たし、きっとその美しさにボクは心を奪われるのだろうが……それは、彼らのように想い合う未来も得られるのだろうか、と思ってしまったのである。
 けれど今ボクの心を動かした彼女は、ボクの運命ではないのだろう。そのことに、こんなに仄暗い感情を抱くとは自分でも思わなかった。

「これが羨むという感情だろうか」
 思わずぽつりと溢した言葉に少し驚く。
 ボクは、羨んでいたと改めて実感させられた。
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