幽霊姫は止まれない!
 ただの形式。ただの伝統。だが騎士になったならば敬愛する主人に命も思考も委ね、そして与えられる信頼に喜びを覚える生き物。

 だが、彼女が俺に与えたのは『信頼』じゃなかった。

「私の命を預けます、って言ったんだ」
「命を?」
「唯一の護衛が命をかけるなら、唯一の主人である私も命をかけます、ってさ」

 それは、ずっと俺だけの心に残っている思い出の中の約束だと思っていた『唯一』という約束だった。

「だから俺はさ、エヴァ様が深窓の令嬢じゃなくても、本当に幽霊姫だったとしてもかまわなかったんだ」
 彼女が彼女であるならば。
 そしてあわよくば俺との約束を覚えていてくれたなら──

「ま、ただの口癖で、本当は幼い時のことを覚えてるかなんかわからないんだけどさ」
 アルフォードに話しながら、だんだん気恥ずかしくなり、誤魔化すように笑みを浮かべる。だがアルフォードは、ちゃかすことも笑うこともなく、少しだけ目を細めた。

「そうか。運命の相手だったのだな」
「俺にとっては、ね」
 重ならない未来。それでも、彼女だけが俺の唯一だから。
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