幽霊姫は止まれない!
 にこりと笑ったサイラスが、触れたままだった手を軽く振った。触れたままだということを改めて気付かせるための、その小さな悪戯のような動きに委ねたままにする。私が手を離さないことに気付いたのか、少しだけ意外そうにした彼だったが、そのまま私の手を引くように歩き出した。

(どこに向かうのかしら)

 不思議そうな顔をしていたのだろう、私の方へ意味深な視線を向けたサイラスがそのまま一点へと視線を動かし、その視線を辿ると兄のいる方だった。
 まだ婚約者のいない自国の王太子ということもあり、兄は娘を連れた貴族たちに囲まれていたのだが、そんな彼らが近づく私たちに気付き道を開ける。一瞬私が幽霊姫だからなのか、と思ったが、彼らが見ているのは私ではなくサイラスだと気付いた。しかも何故か、少し委縮しているようだ。
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