幽霊姫は止まれない!

第九十三話 笑顔はもっとも強い剣

 優しそうな雰囲気の彼にどうして、と思わず首を傾げた私だったが、そんな私たちに呆れたようなため息を兄が吐く。

「明らかな作り笑いをやめてくれ、サイラス」
「そう? でもアルゲイドのとこへスムーズに来れたけど」
「お前のたちが悪いところは、確信犯で笑顔を使い分けるところだな」

 兄の言葉にもう一度サイラスへと視線を向けるが、私へ向けるのはやはり優しい笑み。けれど、その笑みを見て再び兄がため息を吐いたので流石に言葉の意味を察した。
 美形の笑みは完璧なほど冷淡にも見える。きっとサイラスは、貴族たちに笑顔で圧をかけていたのだろう。

「エヴァ。もう知り合ったようだが──」
 口を開いた兄の視線が私とサイラスの手へと注がれる。繋いでいる、とは言ってもエスコートの範疇だと思うのだが、それでも兄としては面白くないようだ。けれど今回は結婚相手を求め、そして彼は兄のお墨付きでもある。そのお陰か、いつもならすぐに引き離しにかかりそうな兄が眉を軽くひそめるだけ……

「はい。先ほどご挨拶させていただきましたわ、お兄様」
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