幽霊姫は止まれない!
 何のことかわからず首を傾げると、体ごと大きく回転するようなステップで回されバランスを崩してしまう。そんな私を難なく抱き留めたサイラスは、あたかもその大振りな動きが最初から決まっていたかのようにもう半回転させ、私の耳元に後ろから顔を近付けた。

「視察の話。街の案内をエヴァにして欲しいなってお願いしてたんだけど、どう?」
「し、視察、ですか?」
 突然後ろから囁かれ、ビクッとしてしまう。

「そう。エヴァ、散々抜け出して来たんでしょ? ならエヴァの目線のこの国を教えて欲しいな」
「それは──」
 断るべきか受けるべきか。
 そんな迷いが頭に浮かび、すぐに振り払うように顔を振った私は、やられっぱなしは癪に障ると言わんばかりに彼の腕の中でくるりと体勢を変え、胸元に飛び込んでから見上げる。

(彼は、隣国オルコットの王子。お兄様のお墨付きの人格で、そして私の魔力なしに偏見を持っていない貴重なひとり)
 そして私の目的は、この国に最も有利な駒になることだ。その方法は、政略結婚。その相手として、彼以上の相手はいないのは間違いないのだ。

「私でよければ、喜んで!」
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