幽霊姫は止まれない!
「いえいえいえ、むしろ鍛えるために私を抱えて上がるってどうですか」
「腕が折れたら国際問題になるから却下で」
「サイラス様、私の国で火種作り過ぎじゃないです?」

 くだらない会話をしながら石畳の階段をのぼる。
 俺が疲れたら、なんて言っていたくせに、なんだかんだで私の手を引いてのぼってくれた。
 
 特に急ぐ必要もないから、とたわいのない会話をしながら進み、目的地である高台へとついた頃にはもう空が茜色に変わり、街がゆっくり影に沈みつつある。
 彼の頬も夕焼けで朱く染まり、きっと私の頬も夕焼け色に染まっているだろう。

「──今回の訪問の目的はさ。アルゲイドに久しぶりに会いたかったってのももちろんあるんだけど」
 そう切り出したサイラスの視線は、城下町の先へ向けられていた。

「新しい街道と港を開く計画があるんだ。両国の交易を広げるには、この街がちょうど要になる。だから現地の様子を見て、関係者と顔をつないでおきたくて来たんだよね」
「そうなんですね」
「けど、予想以上に面白い相手に出会ったって言ったら、失礼な言い方かな?」
 どこか意味深な言い回しをしながら私の頬に彼の指先が触れる。
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