幽霊姫は止まれない!
 私の代わりにこの場を治めようと話すサイラスだが、彼の言葉に一切の返事をしない公爵。その違和感に、そっとサイラスの後ろから顔を覗かせると、なんと公爵はサイラスを無視し私の方を睨みつけていた。

「――!」
 思わずビクリと肩が跳ね、後ずさる。じわりと額に汗が滲み、目の前の背中に縋りそうになるが、触れる寸前にこの背中は〝知っている背中じゃない〟と手を引っ込める。
 そんな私の様子を見ていたサイラスは、何も言わず再び公爵へと向き合った。

「ノルベルト公爵、あまり睨むような視線を令嬢へ向けるべきでは――」
「よく、来られたな」
 投げられたその冷たい言葉は、当然私へと向けられたものである。

「わ、私は」
「相変わらずオドオドとしている。立場上お前が本当に引きこもりではないと知っているが、そんな様子なら本当に引きこもったままでいるべきじゃないのですか」
「それは……」
「ノルベルト公爵、それは流石にあんまりな言い草ではないだろうか」
「殿下は関係ないのではありませんか?」

 吐き捨てるような言葉がサイラスへも投げられる。
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