無口な自衛官パイロットは再会ママとベビーに溺愛急加速中!【自衛官シリーズ】
とはいえいざ碧人が自分以外の女性と親しげに笑みを交わし抱き合う姿を見ると、胸の奥に隠していた想いが溢れ出そうになる。

「もしも」

高校生の時、もしも碧人をあきらめて逃げ出さなければ、それに蓮人を身ごもったことを碧人に知らせていれば、花束を贈るのは自分だったかもしれない。

花束を手に女性と並んでカメラの前に立つ碧人を見つめながら、美月はふと思った。

「それは、ない」

身勝手な思いに、美月は目を閉じ頭を横に振る。

高校生の時も三年前に再会した時も、碧人から離れると決めたのは自分だ。

いまさら自分に都合のいい想像をして落ち込んだり後悔したりする権利はない。

今できるのは、碧人の結婚と幸せを祝福することだけ。

そう、美月にできるのはただそれだけだ。

「れん君?」

いつの間にか腕の中でおとなしくなった蓮人を見ると、さすがに疲れたのか満足そうな笑みを浮かべて眠っている。

初めての遠出、そして初めて見るブルーインパルスに興奮して体力も気力も限界だったに違いない。

「パパに会えてよかったね」

美月は小さくささやき、蓮人をベビーカーに寝かせた。

「帰ろう」

蓮人と一緒に碧人の飛行を見られただけで満足だ。

思い残すことはない。

そう自分に言い聞かせながら、これで最後だと再び基地に視線を向けると、碧人が隊員たちからバケツで水をかけられていた。

ラストフライトを終えたドルフィンライダーへの、恒例のはなむけだ。

遠目にもわかる碧人の満ち足りた笑み。

この三年間の彼の充実ぶりがよくわかる。

「本当にお疲れ様でした」

碧人に向けて軽く頭を下げると、美月は思いを断ち切るように基地に背を向けた。

「れん君、楽しかったね」

そう言ってベビーカーを覗くと、碧人によく似た顔で蓮人がぐっすり眠っている。

碧人とこの先会えないとしても、自分には蓮人がいる。

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