無口な自衛官パイロットは再会ママとベビーに溺愛急加速中!【自衛官シリーズ】
「だから大丈夫」

美月は心の中で何度もそう繰り返しながら、基地をあとにした。




九月に入り、美月は石川県の小松市にあるカフェ『ウィステリア』で働いていた。

大学卒業後入社した藤崎商事が五年前から全国で展開しているカフェのひとつで、五月半ばに赴任した。

駅から徒歩五分の場所にあるガラス張りの店内は明るく広く、ご近所さんや観光客で連日賑わっている。

モーニングでのみ提供している玉子サンドが人気で、

連日午前七時の開店とともに三十席ほどの店内はすぐに満席になる。

カフェの経営の第一の目的は各地域の流行や傾向をSNSではなく直接察知して本業に還元することで、採算は二の次。

社会貢献の一環として子ども食堂を週に一度実施したり地域のコミュニティの場としての役割を果たしたりしながら、地元に根付いたカフェを目指している。

カフェは現在全国に二十店舗ほど展開されていて、各店舗に数人の社員が派遣されている。

美月もそのひとりで、二年前にオープンしたこのカフェで主に経営を担当しながら状況次第で店にも出ている。

入社以来ヨーロッパ事業部で働いていた美月が畑違いともいえるカフェ事業部に異動し小松に赴任したのは、上司からの美月への配慮があったからだ。

仕事柄海外と直接やり取りする機会が多く、真夜中にリモート会議というのも珍しくない。

出張も頻繁にあり、両親のサポートがあるとはいえシングルマザーの美月にかかる負担は大きく、体調を崩したこともあった。

 
それ以上に負担だったのは、未婚のシングルマザーとして子どもを育てる美月への一部社員からの風当たりの強さだった。

 
多様性が重視される風潮が広がりつつあるとはいえ、誰もがその風潮を受け入れているわけではなく、美月の生き方を認めようとしない社員が少なからずいた
のだ。

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