無口な自衛官パイロットは再会ママとベビーに溺愛急加速中!【自衛官シリーズ】
あちこちから驚きの声が聞こえてくる。

「恋人?」

美月はその可能性にドキリとする。

「え、彼女、マリッジリングをしてるぞ。もしかして結婚したのか?」

望遠レンズを覗いているファンの声に、周囲のざわめきがいっそう大きくなる。

「うそ……」

美月は信じられない思いで碧人と女性の姿を見つめた。

碧人は花束を受け取り女性と親しげにハグをしている。

遠目からではふたりの細かい表情は確認できないが、当然のようにハグを始めたところを見ると、ふたりの関係はかなり深く、まるで家族のように見える。

やはり結婚しているのだろうか。

「まあ、サック以外のパイロットは全員既婚者だから、結婚してもおかしくないか」

「だな。少なくとも婚約くらいはしていそうだよな」

ちらほら耳に届く観客たちの考察を、美月は目を閉じ受け止める。

碧人は三十三歳。結婚していてもおかしくない年齢だ。

だとすれば、今日という記念すべき日を妻に祝ってもらうのは、当然のこと。

美月は思いもよらなかった現実に心臓が跳ね上がり、全身が小刻みに震えるのを感じた。

「碧人先輩……」

高校時代、半年にも満たないわずかな間付き合っただけ。

碧人が高校を卒業してからは顔を合わせるどころかメッセージのやり取りや電話で話すことすらなかった相手だ。

碧人には、夢見ていた航空自衛官としての人生をこの先もまっとうし、充実した日々を送ってほしい。

碧人が防衛大学に無事に合格したと人づてに聞いた時、そして蓮人を身ごもった時、美月はそう強く願った。

三年前に偶然再会した時、ひと晩をともに過ごして蓮人を授かったが、それを碧人に告げるつもりも碧人のこの先の人生に波風を立てるつもりもない。

美月と蓮人の存在が、碧人のこれからを左右してはいけない。

そう心に決めて今日まで蓮人と生きてきた。

< 9 / 137 >

この作品をシェア

pagetop