無口な自衛官パイロットは再会ママとベビーに溺愛急加速中!【自衛官シリーズ】
とくに役職に就いているベテランの社員たちにその傾向は顕著で、どれだけ美月が仕事で成果をあげても認めようとせず、あからさまに生き方そのものを否定
するばかり。

それでも育休明けから一年間は蓮人のためにと踏ん張ってきたが、いよいよ心身共に限界を迎え、退職という選択が頭をよぎるようになった。 

 
そんな時、美月の仕事ぶりを認めていた上司がしばらく本社を離れてみないかと提案してくれた。

カフェに派遣される社員の任期は二年。

その期間、環境を変えて別の仕事に向き合うのは悪くないはずだと言われ、美月はすがるような気持ちでそれを受け入れた。

実家暮らしが長く、両親からのサポートを頼りに蓮人を育ててきた美月にとっては一大決心。

一部とはいえ厳しい目を向けてくる人に気を使いながら仕事に向き合うよりも、蓮人と新しい場所で新しい生活を始める方が建設的だと考えたのだ。

結果、その判断は正しかったようで、仕事と住まいを移してからはや四カ月。

新しい生活に徐々に慣れ、慌ただしくも日常を楽しむ余裕も生まれてきた。

蓮人と笑い合える時間が増えたのが、一番うれしい。

とはいえ本社から逃げ出してここに来たという後ろめたさは今も消えず、自分の弱さに落ち込むこともある。

「こんにちはー」

ランチタイムが終わり幾分落ち着きを取り戻した店内に、明るい声が響いた。

店の近所に住んでいる姉の日葉里だ。

暑い暑いと言いながら、大きな紙袋を手に店に入ってきた。

「いらっしゃいませ」

美月はカウンターの上を片付けていた手を休め、笑顔を向けた。

「どうしたの? すごい荷物」

美月は入口に近いテーブル席に腰を下ろした日葉里の手もとに水が入ったグラスを置いた。

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