無口な自衛官パイロットは再会ママとベビーに溺愛急加速中!【自衛官シリーズ】
第一章 パパはドルフィンライダー
第一章 パパはドルフィンライダー

「れん君、凄いねー。あっという間に飛んでいっちゃったね」
 
美月は感嘆の声をあげながら、ベビーカーの中から空に向かって手を振っている蓮人を抱き上げた。

二歳四ヶ月になった蓮人は、予想以上に大きな飛行音に怯えることもなくご機嫌だ。

空の向こうに消えたブルーインパルスを、キラキラした目で必死に追いかけている。

やがて美月と視線を合わせ、不思議そうに首をかしげた。

機体が見えなくなって、戸惑っているようだ。

ここは宮城県にある航空自衛隊松島基地。

普段はブルーインパルスの日常訓練が行われていて、今も六機の機体が青空を縦横無尽に飛行し、基地周辺に集まったファンたちを喜ばせている。

美月と蓮人も基地と柵で仕切られた場所で、大勢の観客とともに観覧中だ。

SNSでも話題に上ることが多いが、ここは日に二度ある訓練飛行の時にはパイロットが乗機する時に手を振ってくれることも多い絶好の場所らしい。

「ぶるーは?」

蓮人はまだブルーインパルスと最後までしっかり言えず、ブルーどまり。それもまたかわいらしい。

「ブルーインパルス、遠くに行っちゃったけど、もうすぐ戻ってくるよ」

「さっくも?」

蓮人の期待に満ちた眼差しに、美月は大きくうなずいた。

「サックも四番に乗ってすぐに戻ってくるよ。さっき綺麗なハートに向かって飛んでいたのがサック。本物を見られてよかったね。ママ、感激しちゃった」

四月の空は薄い雲がわずかに浮かんでいるだけで、見渡す限り青空が広がっている。

その青をキャンパスにしてスモークで描かれたハート。そしてそれを射貫く矢。

それはキューピットという課目で、ブルーインパルス五番機と六番機がスモークで描いたハートを四番機がスモークオンで上昇し、まるでハートを矢が射貫くよ
うな絵を作りあげる。

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