無口な自衛官パイロットは再会ママとベビーに溺愛急加速中!【自衛官シリーズ】
領空侵犯が確認されると基地内にはアラートが鳴り響き、待機室横のハンガーに飛び込み実弾を装填してある戦闘機で五分以内にスクランブル発進しなければならない。

二十四時間いつ鳴るかわからないアラートに備えて待機するが、常に緊張感を保ちながら発進準備をするのは難しい。

心身の疲弊を防ぐためにはほどよい緩和が必要で、碧人はたいてい本を読んだり英会話や任務に必要な資格の勉強をしたりしながらリラックスするよう心がけている。

「それにしても珍しいな。なんでいきなり乗り物図鑑?」

榎本は長机で本を広げていた碧人の隣に腰を下ろした。

「たまにはいいだろ」

碧人は図鑑を眺めつつ、頰を緩めた。

昨日、美月との話が煮詰まった時、それを敏感に感じ取ったらしい蓮人が差し出してきた図鑑だ。

自宅までふたりを送り届けた時に蓮人に返そうとしたが「どうぞ」と言って聞かず、結局持ち帰ることにしたのだ。

蓮人が美月とふたりで何度も読み返した名残が満載の図鑑は、碧人が知らないこの三年近くを伝えてくれるようで愛おしく、何度も読み返した。

次第に碧人を守ってくれるお守りのような感覚が生まれて手放せなくなり、職場にまで持ち込んでしまった。

アラート待機している間の緊張感が、和らぐような気もしたのだ。

「そういえば、例のカフェに行ったらしいな」

「ああ、行った。話題になるのもわかるくらい、シフォンケーキがうまかった」

例の、というのは美月が働くカフェのことで、航空祭前後SNSでの賑わいが基地内で話題になっていた。

もともとモーニングの充実ぶりが有名なカフェで碧人も存在は知っていたが、プレートに丁寧に施されたイーグルのデコレートが評判になり、いっそう名前が知られるようになったらしい。

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