無口な自衛官パイロットは再会ママとベビーに溺愛急加速中!【自衛官シリーズ】
美月は日に日に碧人に面差しが似てきている蓮人を見つめ、小さくつぶやいた。

碧人は現在三十一歳になる美月の二歳年上の高校の先輩で、蓮人の父親だ。

とはいっても内緒で出産したので碧人は蓮人の存在を知らずにいる。

三年近く前に友人の結婚披露宴で偶然再会しひと晩を過ごして以来、連絡を取っていないのだ。

航空自衛官として順調に歩みを進めている彼の重荷になりたくなくて、この先も知らせるつもりはない。

それでも今日松島基地にやって来たのは、今まで映像でしか見たことがない碧人が飛行する姿を、最後に一度だけでもこの目で見たかったから。

蓮人を連れての前泊や、今朝も早い時刻から電車に乗ったり土地勘のない場所を動いたりするのは大変だったが、こうして碧人が飛行する姿を見ることができ
て、思い切って来てよかったと心から思う。

碧人の卒業を祝うセレモニー飛行。

美月たちがここにいることに碧人は気づいていないが、一生忘れられない大切な時間を親子三人で共有できた。

宝物のような時間を一緒に過ごせただけで、十分幸せだ。

「碧人先輩……」

 
身体が震えるほどの大きな音を響かせ頭上を猛スピードで飛び去る機体を見上げながら、美月はいつの間にか頰を流れていた涙を手の甲で拭った。

「お疲れさまでした」

ドルフィンライダーになるという夢を叶え、三年間大勢の人に感動を与えてくれた碧人。

遠く離れた場所から応援し、無事を祈ることしかできなかったけれど、彼を思い出さない日はなかった。

日に日に碧人に似てくる蓮人が側にいるのだ、思い出さないわけがない。

それに全国各地にいるブルーインパルスのファンがSNSに投稿する映像や写真、それに特集が組まれた雑誌や写真集。

この三年間碧人を知る機会はいくらでもあり、可能な限り目を通して彼の活躍を追っていた。
 そんな日々もいよいよ終わる。

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