無口な自衛官パイロットは再会ママとベビーに溺愛急加速中!【自衛官シリーズ】
航空自衛隊の広報としての役割を担うブルーインパルスから離れた碧人の次の配属先は公表されず、この先どの基地でどんな日々を送るのかを知る手立ては途
絶えてしまう。

だからこそ碧人のフライトを見られる最後の機会である今日、蓮人に父親の雄姿を見せてあげたくて、ここに来た。

「さっくー」

今日何度目だろう。蓮人は映像で見てファンになった四番機パイロットのサックに向かって手を振っている。

一生、蓮人には自分がサックの息子だとは知らせないつもりだ。

美月は申し訳なさと切なさをごまかすように、蓮人と一緒に手を力一杯振った。

やがてラストフライトは終了し、厳粛な音楽が流れる中パイロットたちが順に降機する。

四番機から降りた碧人が整備担当の三人と握手を交わしているのが見える。

基地内に流れるアナウンスが、碧人に労いと感謝の言葉を伝えている。

美月の周囲からはサックと呼びかける声や拍手の音が盛んに響き、美月に抱かれた蓮人もつられてサックと何度も呼びかける。

「れん君、今日で最後だからいっぱい見ようね」

碧人を直接見られるのは今日で最後。

美月は三年間ご苦労様という気持ちとともに、基地内で行われているセレモニーを目を凝らし見つめた。

すると場内アナウンスが流れ、碧人への花束贈呈が始まった。

結婚していれば妻や子どもから花束が贈られることが多いが、碧人は独身だ。

美月は碧人の両親がその大役を担うと考えていた。

「え……?」

大きな花束を手に碧人の正面に立った女性の姿に、美月だけでなく周囲の観客たちからも戸惑いの声があがる。

どう見ても碧人の母親とは思えない、三十歳前後の長身でスラリとした女性が、碧人に花束を手渡している。

「誰だ?」

「え、サックって独身だよね。だったら彼女は恋人ってこと?」

「任期を終えたから結婚するとか?」

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