鬱乙女ゲーム世界に転生したので漫才コンビ「悪役令嬢」で婚約解消いたします!
「まず、婚約者を悪役にする小道具があります」
「ほうほう。何もないのに悪役にはできませんからね」
「はい、これが悪役令嬢に汚されたハンカチでございます」

 手提げ鞄から汚れたようにデザインしてもらったハンカチを取り出した。

「知らんわ! 自分で汚したんやろ!」
「そしてこれが、水をかけられたノートでございます」

 濡れて乾いたあとの、しわしわのノートを取り出した。
 
「自分で水をかけたんやろ!」
「歩いてたら足を引っかけられましたと証言があり」
「言うだけなら誰でもできるわ!」
「とまぁ、証拠がたくさん出揃い――」
「いや、全部自前で用意できるやろ。全然証拠ちゃうわ!」

 バカ王子の目が泳いでいる。もう持ってきた証拠の品は使えないわね?

「無事、学園卒業記念パーティーで婚約破棄を宣言します。あんたはイジワルな悪役令嬢や! 僕は浮気相手と幸せになるんやと!」
「あー、なるほどなるほど。悪役令嬢の意味は分かりましたよ。なんでそんなコンビ名にしたのかは分からないけど、意味は分かりました。知ってたけど分かりました」
「で、結果どうなったかというと――」
「あー、聞きたくない。気になるけど聞きたくないわー」
「婚約を勝手に破棄したうえに浮気。これでは貴族の支持も国民の支持も得られない、ときたらもう分かるわね。継承権の剥奪と王族からの除籍。平民として愛する浮気相手と暮らすことになり、めでたしめでたしと」

 バカ王子は顔色真っ青だけど、リリナはなにやらウンウンと頷いているわね。
 
「え……めでたしなんか?」
「めでたしでしょう」
「悪役令嬢はどうなったん?」
「そんなの決まってるわ」
「え、決まっとるんか?」
「突然現れたイケメンに求婚されるのよ」
「なんでや!」
「だから私は『悪役令嬢』として生きようと思うの」
「いや、いい話にしようとしてるけど『悪役令嬢』って私らのコンビ名やん? 悪役令嬢二人いるけど、突然現れるイケメンも二人なん?」
「は? 突然現れるイケメンはあんたでしょ」
「え、私?」
「だってあんたは――」

 頭に乗っかってるカツラを剥ぎ取る。

「男やろがい!」

 オチがついたところで、陛下が拍手をしてくれる。つられたように、貴族の皆も拍手してくれる。

「ありがとうございました〜」

 ……まぁ、前世でお笑いを目指していたわけではないから上手いわけではないけど……打ち合わせはすごく楽しかった。この世界にお笑いはないし、これからその文化を発生させるのだからまだ荒削りで問題ないだろう。
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