鬱乙女ゲーム世界に転生したので漫才コンビ「悪役令嬢」で婚約解消いたします!
 アダムも照れくさそうに私を見て頷いてくれる。最初にその話をした時は、心配そうだった。

『僕にできるかな……でもやらないとロゼリアが婚約破棄されちゃうんだよね。う……ん、ロゼリアは破棄されるのが嫌なの? えっと、破棄されても僕なら……えっと……』 
『破棄されるくらいなら、こっちから破棄してやるのよ。とはいえ、陛下に話をつけて婚約解消かしらね。私たちの頑張りにかかっているわ』
『よかった。ああ……でもプレッシャーだなぁ』
『アダムも私があのバカ王子に嫁ぐのは可哀想だと思ってくれていたのね』
『え……あ、う……ん、そうだね。してほしくないなとは……』
『ありがとう。絶対に成功させるわよ!』 

 アダムも頑張ってくれて助かったわ。

「皆様、今ご覧いただいたお笑いを私たちは広め、極めたいと思っているのです。私たちの夢は大きく、陛下にも許可をいただきましたわ! まずは隣国デリカ王国でゼロからのスタートを切りたいと思っていますの。私とエリク様は今、この場で! 円満に婚約解消をいたします! よろしいですね、エリク様!」 
「あ、ああ……」

 呆気にとられたような顔をしながら、バカ王子が頷いた。最終的な望みはそれだものね。断る理由がないわよね。

 ――パチパチパチパチ。

 やや遅れた拍手が鳴り響く。

「やはり君たちのお笑い、漫才なるものは最高だな」

 ひっそりと後ろの方にいた隣国の第二王子が拍手をしながら前に出てきた。少し前からこの国に外遊に来ていて、陛下に紹介してもらった。彼の前でも漫才を披露して、隣国での生活の保証と舞台の手配まで約束してもらった。

 正直、こんな騒動のあとにこの国で活躍するのは、精神的にちと厳しい。渡りに船だ。

「観ていただき、光栄ですわ。フランシス殿下」
「ああ、最高だったよ」

 私の言葉にまた会場がざわつく。なかには「突然現れたイケメンに求婚!?」なんて声もある。私たちの漫才の印象は強烈だったってことね。

「君が僕の国に来てくれるのを首を長くして待っていよう」
「もう学園は卒業しましたし婚約も解消しました。すぐにでも参りますわ。ただ、私たちはコンビ。私だけでなく、私たちをお待ちくださいね」
「失礼。もちろんだとも。あまりに君が綺麗でついね」

 ちょっと軽薄そうなのが玉に瑕よね。

「あのっ」

 アダムが一歩前に出た。
 どうしたの? すごく震えているわよ?
< 4 / 8 >

この作品をシェア

pagetop