離婚を前提にお付き合いしてください ~私を溺愛するハイスぺ夫は偽りの愛妻家でした~
「千博さんは古いもの全般好きなの? こだわりないって言ってたけど」
「あー、いや、好きというのとはまた違うかもしれない。ただの皮肉なんだよ」
「皮肉?」

 反復しての問いかけに千博は小さく頷いている。

「建物でも工芸品でも書物でも、モノそのものは残っているのに、それを作った人や使っていた人はもうこの世には存在しないだろう?」
「そうね」
「そうなるとその人の考えはもう誰にもわからないから、モノが独り歩きをする。もちろん資料が残っていれば別だけど、そうでない場合は現代人が勝手に解釈をする。こういう意図で作られただろう、こういう用途で使われていただろうって」
「うん?」

 言っていることはわからなくもないが、いまいち言いたいことがわからず、美鈴は首を傾げながら頷く。

 そんな美鈴の様子を千博は横目で見ながら、話を続けていく。

「どれだけ様々な思いが込められていても、それはもう誰にも伝わらない。命の終わりと同時に消えてなくなる。それなのにモノだけが残って大事に保護される。結局、目には見えない人の思いなんかよりも、形として残るモノに人は価値を見出すんだよ。口では気持ちが一番大切だと言いながらね。そんな皮肉が面白くて見に行くんだ」

 ようやく皮肉と言った意味はわかったが、皮肉というよりもひねくれていると思ってしまった。随分と曲がった考え方だ。

 けれど、千博の言葉そのものを否定しようとは思わない。それでは千博自身を否定することになる。なぜだかわからないが、今の言葉は千博の本質を語っているような気がしたのだ。

 彼が自分を偽り、理想の家庭を築こうとしていたのも、そこに理由があるのかもしれない。だからといって理解はできないけれど、千博の本当の考えに触れられたことは純粋に嬉しいと思った。
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