離婚を前提にお付き合いしてください ~私を溺愛するハイスぺ夫は偽りの愛妻家でした~
 朝日が町を照らし始める頃。

 深い深い眠りの底から少しずつ意識が上昇し始めた美鈴は、とても不思議な感覚に陥っていた。

 なぜだろう。とても温かくて、心地よくて、ほっとする。ずっとそこにくるまっていたいような温もりがすぐそばにある。

 ここはいったいどこなのだろう。この温もりは何なのだろう。

 それを確かめようと目を開いてみれば、目の前にとてもやわらかな千博の微笑みがある。

 ああ、そうか。千博のこの微笑みが温かいのか。瞬時にそう理解した美鈴は、すぐにここが夢の中なのだと気づく。

 なぜならば、その微笑みはもう美鈴には見られないもの、ずっと前に失ってしまったものだから。

 そうであるならば、まだこの夢の中にいたい。覚めないでほしい。そんな美鈴の願いとは裏腹に美鈴の意識は覚醒する。

 ゆっくりと瞼を開けていく中、心地よい温もりがなくなっていないことに気づく。

 おかしい。まだ夢の中にいるのだろうか。美鈴はそんな疑問を抱きながら、さらに瞼を開いていく。

 そうして美鈴の目に最初に映ったものは、美鈴の方を向いて眠る千博の顔。先ほどのような微笑みは浮かべていない。それなのに、なぜまだ温かいのだろうか。

 そんな疑問は完全に意識が覚醒すると同時に解消される。
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