離婚を前提にお付き合いしてください ~私を溺愛するハイスぺ夫は偽りの愛妻家でした~
「たぶん、半月くらい前かな。私、会社の倉庫に用があって、昼休憩の終わりに一人でそこに行ったのね」

 軽く相槌を打つ。

 倉庫とは本社ビルの横にある二階建ての建物のことだろう。以前はどこかの部署がオフィスとして使っていたらしいが、美鈴が入社した時点でそこはすでに倉庫になっていた。ほとんど使われていないものしか置かれておらず、滅多にそこに足を運ぶ人はいない。

 そんな場所が舞台など、もう嫌な予感しかしない。美鈴は知らず知らず緊張を覚え、手の平を軽く握りしめる。

「用があったのは二階なんだけど、屋上のドアが少しだけ開いているのに気づいてね。それで閉めようと思って近づいたら、そこから誰かの声が聞こえてきたの。女性の声で、『早く離婚して私と再婚すれば、二人とも幸せになれる』みたいなことを言ってた」

 ドクドクと心臓が脈打つ。そこまで聞けば、もう想像がついてしまう。その言葉を放った女性が誰であれ、相手は千博だったということだろう。

 離婚は決まっていることとはいえ、千博が別の女性と、と考えると胸が痛い。

 やはりこんな話聞かなければよかった。聞きたくない。でも、聞かなければ。

 そんな複雑な気持ちで話の続きに耳を傾ける。

「聞こえたのはそれだけで、どういう流れでそんな会話になったのかはわからない。そのあとすぐに女性は屋上を出たけど、私は咄嗟に隠れたから、それが誰だったのかもわからない。でも――」

 一度そこで言葉を区切る洋子に、いよいよ決定的なことを言おうとしているのだと察する。

 そして、美鈴が予想した通りの悲しい事実を突きつけられる。
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