離婚を前提にお付き合いしてください ~私を溺愛するハイスぺ夫は偽りの愛妻家でした~
 駅前の大通りから脇道を少し進んだ先にある小さな喫茶店。その店内の奥まった席に美鈴と宮下は向かい合って座る。

 あまり人が多いところでする話ではないということで、美鈴がこの喫茶店へと案内した。この店にはほとんど常連しか来ないようで、今も美鈴たちを含め客は三組しかいない。とはいえ、完全に人の目がないわけでもないから、ここでなら安心して話せるだろう。

 適当に注文を済ませると、本題に入る前に先に美鈴から質問を投げる。

「あの、間違いだったらすみません。お会いするのは初めてですよね?」
「そうですね。まあ、私は以前から知っていましたけどね。社内では有名ですから」

 千博と交際を始めてからは社内で噂されることも多かったから、そこで知ったということだろう。それ自体は特におかしなことではないが、一方的に知られているのはどうにも落ち着かない。

 そもそも美鈴の顔を知っていたとしても、今の職場を知っているのは普通ではないだろう。美鈴は知らず知らず緊張を覚える。

「……私がここにいることはどなたから?」
「親切な方が教えてくださいましたよ。たぶん、ご近所さん? じゃないですかね。マンションに入って行かれたので」

 その人物に心当たりのあるような、ないような。はっきりとしない誰かの登場に美鈴は警戒を強める。マンションを知っている理由もわからないし、そもそも面識のない人がここまで来ること自体怖い。

 美鈴は表情を険しいものにして小さくつぶやいた。

「……そう、ですか」

 もう少し突っ込んで宮下のことを訊いた方がいいだろうか。そう思ったものの、なんだか怖くてそれ以上は訊けなかった。
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