離婚を前提にお付き合いしてください ~私を溺愛するハイスぺ夫は偽りの愛妻家でした~
「美鈴?」
「……一方的に言い逃げしないでよ」
「いや……そんなつもりはないよ」
「じゃあ、質問に答えて」

 ゆっくりと千博がこちらへ振り返る。真っ直ぐにこちらを見つめてくる千博の瞳を揺れる瞳で見つめ返す。そうして不安定に見つめ合ったまま、美鈴はずっと心の中にくすぶり続けているあの疑問を絞り出すように投げかける。

「どうして間違いだなんて言ったの? 私のこと抱いておいて、なんで間違いだなんて言ったのよっ」

 千博の表情がとても険しいものへと変化する。その表情から、やはり間違いだという思いがあるのだなと推察するが、千博から返ってきた言葉は意外なものだった。

「それは……君を傷つけたから。ひどく泣かせてしまった……好きでもない男に抱かれるのはつらかったはずだ。それなのに、僕は君への気持ちを止められなくて、自分勝手に触れてしまった。本当にすまなかった」

 何なのだその理由はと強い苛立ちを覚える。あまりにひどいすれ違い方に、美鈴はぶつけようのない怒りを持て余す。でも、心の中を大幅に占めるのは、泣きたくなるほどの嬉しいという感情だった。

「……だったら、そう言ってよ。最初から全部言ってよ!」
「すまない。本当にすまない」
「違う! 千博さんは全然わかってないじゃない! 私の気持ちを勝手に決めないでよ……」
「それは――」
「嫌だったから泣いたんじゃない。嬉しくて泣いたのよ。千博さんが好きでたまらなくて、あなたに求めてもらえたことが嬉しくて泣いたの。千博さんを愛してるってあれだけ言ったのに、どうしてわからないのよ……」
「っ……だが、それは昔の僕のことだろう? 本当の僕ではなく、偽りの……」

 そういうことかと納得する。結局、美鈴も千博も『偽りの愛』という言葉に惑わされていただけなのだと。

「千博さんは千博さんよ。昔も今もない。あの半年の時間を通して、やっぱり千博さんが好きだと思ったの。私への愛が偽りだったとしても、私の愛は変わらなかった。ずっとあなたが好きだった」
「っ、美鈴」
「さらけ出してくれるって言うなら、もっと全部見せてよ。千博さんの全部を教えて。本当の気持ちを教えてよ!」

 美鈴の都合など考えず、千博の本心を聞かせてほしかった。嘘偽りのない彼の心の奥底が知りたかった。

 その気持ちは伝わったのだろうか。

 千博は座卓の上に置かれた指輪を手に取り、再び美鈴と向かい合わせに立つ。
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