離婚を前提にお付き合いしてください ~私を溺愛するハイスぺ夫は偽りの愛妻家でした~
「美鈴が今も好きだ。愛している。君を誰にも渡したくない。どこにいて、何をしていてもいいから、僕のパートナーであってほしい」

 指輪が彼の手元から美鈴の目の前へと差し出される。

「僕と結婚を前提に付き合ってくれませんか?」

 次はもう迷わない。左手を差し出し、躊躇わずに「はい」と答えた。

 ゆっくりと薬指に指輪がはめ込まれていく。結婚指輪とは違うその指輪が二人の今の関係を表している。

「美鈴っ」

 千博にぎゅっと抱きしめられる。その瞬間、美鈴は大きな喜びを覚えるも、なぜか体はその気持ちに反してびくりと強ばってしまった。

 美鈴のその反応に、千博は慌てた様子で美鈴をその腕から解放する。

「っ、すまない。大丈夫。わかっているから。簡単には信じられないとわかっている。ずっと偽り続けていたんだ。拒否反応が出るのは当然だ」
「ごめんなさい。疑ってるわけじゃないの。嫌でもないの」

 決して嫌ではないのに、やはりあの日の出来事が大きなしこりとなって美鈴の中に残っているのだろう。間違いだと言われたことがそれほど美鈴にショックを与えていたらしい。

「大丈夫だよ。本当にわかっているから。君の心の傷が癒えて、僕のことを受け入れられるようになるまでいつまでも待つよ。勝手に触れたりしないと約束するから、安心して」

 千博なら言葉通りにいつまでも待ってくれるのだろう。でも、それに甘え続けるのは性に合わない。美鈴は自分の人生を自分で選んで生きていきたいのだ。

 千博の手を取り、そっと自分の頬に当てる。

「っ、美鈴!?」
「逃げたくないの。私も向き合いたい」

 顔を上に向け、そっと目を閉じる。何の合図かは言わずとも察してくれるだろう。

 すぐ近くから息を呑む気配がする。自分の顔に影が差したのを察し、美鈴は少しだけ身構える。その直後。半年ぶりのやわらかな感触が美鈴の唇を覆ってきた。

 先ほどのような拒否反応は示さない。そのことに安堵し、少しだけ入れていた力を抜く。

 そうすれば千博と触れ合える喜びが美鈴の中にじわじわと広がっていった。
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