離婚を前提にお付き合いしてください ~私を溺愛するハイスぺ夫は偽りの愛妻家でした~
『だから、美鈴に愛なんてないって言っているだろ?』
「っ!?」

 千博の会話を聞くつもりはまったくなかったのに、耳が勝手に拾ってしまった。あまりにも衝撃的な言葉に浴室に向かっていた足が止まる。

 とてもじゃないが千博が放ったとは思えない台詞に脳が激しく混乱している。千博の言葉の真意を理解するのに精一杯で、体を動かす信号が完全に失われてしまったようだ。

 そうしてその場で動けないでいると、さらに信じられない言葉が千博の声で聞こえてきた。

『そりゃあ大事にはするさ。それが一番楽だからな。理想の妻を手元に置いておくための必要経費みたいなものだよ』

 ドクンと大きく心臓が音を立てる。口から飛び出してしまいそうなくらい激しい鼓動に思わず胸を押さえる。

 千博に大事にされていることは疑いようもない事実だ。でも、それは自分を愛してくれているからこそだと思っていた。愛し合っているから、お互いを大切にしているのだとそう思っていた。

 それなのに『必要経費』とはあまりに残酷で冷たい言い方だ。まるで一ミリも望んでいないのに、必要に駆られてしかたなくそうしていると言われているかのようだ。

 これまで千博の愛を疑ったことなんて一度もない。誰よりも自分を愛してくれていると思っていた。しかし、それは幻想に過ぎず、彼がくれる愛はすべて偽りだというのだろうか。
< 25 / 216 >

この作品をシェア

pagetop