離婚を前提にお付き合いしてください ～私を溺愛するハイスぺ夫は偽りの愛妻家でした～

　千博からもらった言葉を反芻しているうちに時間はあっという間に過ぎていき、気づけばもう眠りに入るような時間帯。今日が土曜であることに美鈴は緊張を隠せない。

　先週は美鈴のことを気遣って、千博はすぐに眠ってしまったけれど、今日はどうするのだろうか。また美鈴が普通でないことに気づいて休ませようとするだろうか。それとも今夜は――。

　不安と幾ばくかの恐怖とほんの少しの期待。それらが入り混じった状態でベッドに入れば、やはりと言うべきか千博は愛の囁きだけ与えてすぐに眠る体勢に入ってしまった。

　どこかほっとすると共に、言いようのない寂しさが湧き上がる。このまま千博との愛は消えてなくなってしまうのではないかと。

　先ほどの千博の言葉に強く胸を打たれたがゆえに、美鈴は今大きな不安を抱えている。それを払拭したいがあまりに、気づけば千博に自らすり寄っていた。

「……千博さん」
「ん？」

　名だけ呼んで何も言わない美鈴に、千博は体ごとこちらに向けて美鈴の様子を窺ってくる。

「どうした？」

　不安定な心に千博のその優しい問いかけはもはや毒だ。美鈴の体を蝕み、支配していく。

「……お願いっ」

　眉根を寄せながら懇願する。たった一言しか言っていないが、千博にはこれで十分伝わったようだ。気遣わし気に美鈴を見つめ、そっと美鈴の頬をその手で包み込んでくる。

「まだあまり調子よくないだろう？」
「……触れて？　千博さんに触れてほしいの」

　千博の愛が偽物なんかではないと肌で教えてほしい。十分すぎる言葉はくれたが、それだけでは足りない。千博に求められることで不安を消し去りたい。

　真っ直ぐに千博の目を見つめ続ければ、千博は心配そうな表情はそのままに静かに一つ頷いてくれた。

「……わかった。でも、おかしいと思ったらすぐに教えて？　いい？」
「うん」