離婚を前提にお付き合いしてください ~私を溺愛するハイスぺ夫は偽りの愛妻家でした~
「……美鈴、どうしたんだよ。なぜそんなことを訊くんだ?」

 少しの沈黙を挟んでから問われる。千博の顔には笑みが浮かんでいるが、そこにはほんのわずかの硬さがある。それは美鈴にしかわからないくらいの些細な違和感。でも、それだけで十分だった。もうわかってしまった。千博の愛は本当に偽りだったのだと。

 質問の意図がわからないと不思議そうな表情をするなり、美鈴を安心させる微笑みを見せるなりしてくれれば、千博に心当たりはないのだと思えただろう。でも、今の表情ではそうは思えない。

 それに美鈴の質問をすぐに否定するでもなく、訊き返してくること自体がその答えを示している。美鈴を本当に愛してくれている千博ならば、美鈴の心中を慮った言動をするはずなのだ。こんなふうに美鈴を心配する前に問いただすようなことはしない。明らかに動揺しているのだと美鈴にはわかった。

 ああ、これでもう完全に希望はついえたのだと落胆する。もしかしたら何か事情があるのではないかという淡い期待ももう抱けない。

 覚悟していたとはいえ、その現実を目の当たりにすると胸が痛い。張り裂けてしまいそうだ。今すぐにでも泣いて、喚いて、暴れてしまいたいくらいに心が激しく乱れている。

 それでもここから前へ進むためには、それに耐えて千博と話をしなければならない。すべてを白日の下に晒し、偽りの愛を終わらせなければならない。
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