離婚を前提にお付き合いしてください ~私を溺愛するハイスぺ夫は偽りの愛妻家でした~
 そんな思いで否定してみても、千博にはまったく響いていない。

「否定ばかりで君らしくもない。いったいどうしたいんだ」

 もはや投げやりですらある千博に痛いくらいの切なさを覚え、心の叫びが漏れ出る。

「……じゃあ、――ってよ」

 自分の耳にも届かないくらい小さな声は当然千博にも届いておらず、千博は訝しげな顔を向けてくる。

「ん?」
「私と……私と離婚を前提に付き合ってよ」
「……は?」

 理解できないという表情で千博がこちらを見てくるが、美鈴も理解してその言葉を口にしたわけではなかった。ただただ漏れ出た言葉だった。

 けれど、口にした途端わかった。何が美鈴を深く悲しませていたのか。何を千博に求めていたのか。

 千博の愛が偽りだと知って、美鈴は自分自身を上手く保てなくなっていたのだ。美鈴の愛する千博が作られたものならば、これまでの美鈴の愛も偽りになってしまうような気がして。千博と過ごした時間も、彼に注いできた愛情も、すべてが偽物だったと言われているようで苦しくなった。

 今の美鈴を形作っているのは間違いなく、千博からもらった大きな愛と彼への深い想い。それを失えば、自分を築いている基礎がぐらぐらと揺らいでしまう。そんな不安定な心が苦しかった。

 千博からの愛を失うことは当然悲しいが、それとは比べ物にならないくらい千博への愛を失うことの方が悲しい。

 だからこそ、このまま千博との関係を終わらせるだけではだめなのだ。偽りでない千博と時を共にし、自分の気持ちに向き合う時間が必要だ。

 美鈴はたった今理解した思いを千博に伝えていく。
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