はるけき きみに  ー 彼方より -
「おやおや、これは縁側で密談ですかな」
 近江屋だった。
 揉み手をしながら近づいてくる。

「お前、また無断で入って来たのか。ここは八重殿の家だ、仮にも武家屋敷だぞ」
「そんな堅苦しいことは言いっこなしですよ。私は始終ここに出入りさせてもらって、いわば家族のようなものですからね」
「家族だなどと」

「それより大事な話を持ってきたのです。あのフライロート号があさって出発するそうですよ。お二人の耳に入れた方がと思ってね」

 え、と目を丸めたサジットに、
「だったら急いだほうがいい。あの気まぐれなクレイブ船長のことだ、明後日がいきなり明日になるかもしれないぞ」

 うなずくと自分の部屋へ急いだ、布袋を出して荷物を詰めていく。

「あなたは行かないんですか」
「行かないさ、すくなくとも今はな」
「そうですか。これを逃すと次はいつになるかわからないんですよ」

「悪かったな」
「え?」

「乗船の斡旋料が一人減ったってことだろう? 儲けが半分になったんだからな」
「いや、そんなことは・・。私はただ親切で情報を持ってきただけで」

「だが通訳の一人は残るんだ、それでまた儲かる道があるだろう?」

 切り返されて苦笑した。
「いやですねぇ身も蓋もない。でもまたそのときはお願いしますよ」

 ペコリと頭を下げた、つぎにはさっさと帰って行く。
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