はるけき きみに  ー 彼方より -
「マシューはここに残るって、それでいいの?」
「ああ、気の向くままだ。それに実はあの鹿島のことが気になるんだ。奴は何かを仕掛けてきそうな気がしてね。だとしたら紫音、君を一人にしては行けないだろう」

「え? 私のためだなんて」
「それだけじゃない。この堺で何かが動いている、それを探ってみたいんだ」
「何かって、それはいったい」

 紫音が聞いたときだった。
 廊下をバタバタと走ってくる音がした。
 八重だった。

「お嬢様、申し訳ございません、大変なことを忘れていたのです」
「たいへんなこと?」

「はい。旦那様から、丹波様から文を預かっていたのです。それをうかつにも失念しておりました」
 と一通の封書を出した。

「一年前のあの朝、『大切なものだから間違いなく届けるように』とこれを預かったのです」
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