はるけき きみに  ー 彼方より -
 表に【修永寺(しゅうえいじ) ご住職、信安(しんあん)様】と記されている。

「私はそれを受け取ってひとまず文箱に入れたのです。修永寺は京都にございます。そこへ行く便を探してことづけようと思ったのです」

 しかしその日衝撃の事件が起こった。
 役所で丹波が拘束され、座敷牢に入れられたのだ。
 さらに数日後にはその丹波が獄死してしまった。

 篠沢の家は天地がひっくり返る騒ぎになった。

「八重、それは仕方ないかもしれないわ。あんなことが続いたのだもの」

 篠沢の屋敷が差し押さえられ、紫音も下乃浜に流されるという沙汰を受けた。
 まさに怒涛の展開だった。

「宛名が修永寺になっているのね。これはあの小田切の家の隣にある寺院よね」
「そうです。紫音様のお母様のご実家、その隣のお寺でございます」

 紫音の母、香苗は京都の旧家の出身だった。
 丹波に乞われて篠沢家に嫁いできたのだ。

 子供の頃、母に連れられて小田切家に滞在したことがある。
 紫音だけでなく、丹波もたまに同行していた。

 丹波はその折に隣の住職と懇意になったらしい。
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