はるけき きみに  ー 彼方より -
「小さい頃は何度もこの境内に遊びに来られて、拙僧はそのお相手をいたしました。地面に絵を描いて見せてくださいましたし。そうそう、お接待の流れのお菓子を持参すると、それはおいしそうに召し上がってくださいましたな」

 紫音は返事をしようとした。

 だがそんな暇も与えず、
「ああ、こんなこともございました。子犬が境内に迷い込んで、あなた様はそれを追いかけて溝にはまって泣いておられました。あれは見ていても面白く楽しゅうございました」
 ハッハッハと大声で笑っている。

「それから、あれはいつだったか」
 と続けようとして、
「あの、ご住職様」
 宋念が遮った。

「今回は大事なお手紙を持参されているそうでございます。それを読んでいただきたいとのことで」

「ああ、そうでござったな。年を取るとどうも話が長くなって」
 ペシリと自分の頭を叩いた。
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