はるけき きみに ー 彼方より -
「私がこの寺に来たのは十年前でございます。だから香苗さまが、小田切家で最後を迎えたという詳しい事情は存じ上げないのです。でも、小田切様はこの寺に隣接するご近所中のご近所でございます。だからいろいろなことが今までに耳に入って来ていました」
そう言って、部屋から見えるはずもない西隣を見た。
「このことは私がお話ししていいのかと迷うのですが、あなたにとって重大なことだと思います。この十年の間に信安住職から聞いたこと、近所として耳にしたこと、いま拝見させていただいた丹波様のお手紙、それを考え合わせると一つの道筋が見えてくるのでございます」
「道筋、でございますか?」
「はい。話の内容が内容ですので、紫音様にとってはご不快なこともあるかと存じますが」
「おっしゃってください。そうでなければ何もわかりません、私は何も知らないのですから」
では、と続けた。
「今から十五年前のこと、信安様は香苗さまからある相談を受けたそうなのです。紫音さまが四歳のときだったと存じます。先ほど信安様がお話になった通り、香苗さまは大きな悩みを抱えておられました」
「それは、私の父親が誰であるか、についてでしょうか」
「そうです。しかし香苗さまは背徳の行為をされた訳ではございません。・・その、仏に仕える身としては大変言葉にしにくいのですが」
と瞑目したあとで、
「今から二十年前、丹波様が務める役所で懇親の会というものが催されたそうでございます。めずらしく夫婦同伴で、という趣旨で香苗さまも出席されたそうなのです」
そう言って、部屋から見えるはずもない西隣を見た。
「このことは私がお話ししていいのかと迷うのですが、あなたにとって重大なことだと思います。この十年の間に信安住職から聞いたこと、近所として耳にしたこと、いま拝見させていただいた丹波様のお手紙、それを考え合わせると一つの道筋が見えてくるのでございます」
「道筋、でございますか?」
「はい。話の内容が内容ですので、紫音様にとってはご不快なこともあるかと存じますが」
「おっしゃってください。そうでなければ何もわかりません、私は何も知らないのですから」
では、と続けた。
「今から十五年前のこと、信安様は香苗さまからある相談を受けたそうなのです。紫音さまが四歳のときだったと存じます。先ほど信安様がお話になった通り、香苗さまは大きな悩みを抱えておられました」
「それは、私の父親が誰であるか、についてでしょうか」
「そうです。しかし香苗さまは背徳の行為をされた訳ではございません。・・その、仏に仕える身としては大変言葉にしにくいのですが」
と瞑目したあとで、
「今から二十年前、丹波様が務める役所で懇親の会というものが催されたそうでございます。めずらしく夫婦同伴で、という趣旨で香苗さまも出席されたそうなのです」