はるけき きみに  ー 彼方より -
 すると酒を勧めた男が、
「具合が悪いのではありませんか」

「・・いえ、だいじょうぶ、でございま」
 そこまで言うのがやっとだった。

 男はさりげない風に香苗の体を支えた。
「もしご気分が悪いのでしたら、別室へ行きましょう」
 耳元でささやいた。

「ここは親睦の席です。皆の目がございます。丹波様のためにもここで何かあってはいけません。向こうで少し休まれませ」

 断るには体の異変が大きすぎた。夫に恥をかかせてはならない、それが渦を巻いていた。

 連れていかれたのは廊下の奥にある部屋だった。そこに布団が敷いてある。
 なぜ? と思う余地もないまま倒れ込んだ。そして意識を失った。


 気が付いたのは窓から西日が差し込む時刻だった。
 体に布団がかけられている。

 重い気分を押して立ち上がろうとした。
 ふと気が付くことがあった。
 着物の裾が乱れているのだ。

 意識がないまま寝乱れたのだろうか、なんと不調法な。
 己をしかりつけて立ち上がる、丹波が待っているだろう宴会の席へ帰ろうとした。

 歩いているとき、わずかに体の異変を感じた。

「・・え?」
 と。
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