はるけき きみに  ー 彼方より -
 出産は小田切家でと望んだ。
 そのときだけでも父母がいる実家に身を寄せたいと思った。

 そして香苗は女の子を出産したのだ。
 丹波は仕事を切り詰めて小田切家に通った。
 待ちに待った子をうれしそうに見つめ、その腕に抱いて喜びをあらわにした。

「この子は香苗に似ておるの。末はきっと美人になることだろう」
 そんな言葉さえが香苗に突き刺さる。

 では、父親は? いったい誰に似た子に育つのでしょう。
 そう思うことで自分を傷つける、それがわかっていながらそこへ行きついてしまう。
 心が泥沼に落ちていくようだった。

 その呵責に耐え切れなくなったとき、とうとう丹波に告げた。
 丹波は驚愕する。信じられないという顔で香苗を見る。

「打ち据えてくださいませ、私を」
 と刀を手にしてうずくまる。

 その香苗のそばに膝を落とした。
「お前は一刻意識を失っていたのだ、ただそれだけのことであろう? 紫音は私の子である。間違いがないのだ」
 静かに告げた。

「私の子を産んでくれたそなたを、どうして切り捨てなどできようか。落ち着くのだ、香苗」

 肩に丹波の手が置かれた。
 香苗には支えきれないほど重い手に思えた。
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