はるけき きみに  ー 彼方より -
 そして、夫はさりげなく聞いた。
「その、薬を盛ったらしい男、それは誰だったのだ?」

 香苗が蒼白になる。
 苦しい息の下で小さく名を告げた。

 丹波が黙った。

 長い時間のあと、
「そうか」
 それだけを言った。


「母は、その名前を父に告げたのですね」
「そうお聞きしております」
「誰、だったのですか、それは」

 気丈に聞いているように見えた。

 だが、左手を押さえる右のそれが小刻みに震えている。
 必死で押さえつけているのが分かった。

 マシューがさりげなく位置を変えた。
 紫音の背後にまわった。そこは手を出せば支えられる距離だった。
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