はるけき きみに  ー 彼方より -
「そして・・」
 宋念が続けた。

「さきほどの丹波様のお手紙のことでございます。それにもあったように、この話を広めてしまった人物がいるのです」
「え?」

「誠に申し訳ないことに、その人は当院の檀家の一人なのです」

 そういえば手紙の中に、
【それゆえ貴院の檀家の方にも、思慮ある行動を願いたく・・】
 という箇所があった。

「香苗さまが亡くなったとき、そのお墓をここの境内に設けさせていただきました。信安様は祥月命日には墓前で経を唱えてご供養していたのです。あるとき、それを一人の檀家の方が見かけたのです。そのご隠居は、これはどなたのお墓ですかと聞いてきました」
「・・・・」

「信安様は、・・その、お年を召して判断力が鈍くなられたというのか、聞かれるままに話してしまったのです。香苗さまのご事情までを、です」

 聞き出した内容は驚くべきことだった。
 地区の旧家の小田切家の、そして美姫とうたわれた香苗の隠された部分だ。

 隠居が身を乗り出した。
 聞けばなんでもしゃべる信安を相手に、次々と質問をなげかける。

 香苗が生んだ子が夫の丹波の子であるのかないのか、そんな醜聞中の醜聞を、容易につかみ取っていった。

 そして世間に流したのだ。
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