はるけき きみに  ー 彼方より -
 修永寺の山手の境内に、紫音の母の墓があった。
 それは生まれて育った小田切の屋敷に接するほどの場所だった。

 紫音は花を手向けた。

 長い合掌のあとで、お母さまと呼んでみる。
 答えはもちろんない。あたりを一陣の風が吹いていくだけだった。

 ・・と、その風に揺れるものを見た。
 北側の窪地、常緑樹の松の陰に隠れるように白いものがたなびいていた。
 まあ、と目を凝らした。

「枝垂桜だわ。まだここは咲いていたのね」

 春が間もなく過ぎようとするときだ。あたりの桜はほぼ花弁を散らしている。だがその枝垂桜だけはいま満開を迎えていた。

 風に乗ってゆらゆら揺れるさまは見事だった。
 まるでこっちにおいで、と誘っているようにも見えた。

 近づいてみる。すると淡い、だが高貴な香りが鼻をついた。

「お母さまと見に来た桜です。この枝垂桜はお母さまも大好きだと言って、なんども何度も来たのです」
 独り言のように言う。
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