はるけき きみに  ー 彼方より -
 それを見て、マシューにははっとするものがあった。

 いつか、こんな光景を聞いたことがあるのではないか。

「・・日本には、得も言われぬ美しいものがあるのです。それは風にたなびく枝垂桜だったり、空に向かってそびえる五重塔だったり。まるで別世界の、天国のような、そんな光景なのです」
 と。

 日本への憧憬を込めてそう言っていた。
 あの老牧師だ。

 まさか、と思う。時を隔てて自分がその光景を見ることになろうとは。

 枝垂桜、そのずっと向こうにそびえているのは五重塔。
 まさしくこの国の、あの老牧師が夢にまで見てあこがれた日本の神髄だった。

「もう一度行きたいとずっと願っていたのです。だが私は歳をとりました。あの長い長い航海を経て辿り着く日本へは、もう行くことが出来ないのです」
 観念したように言った。

 そして死の間際、マシューを枕元に呼んで告げたのだ。

「人生は短い。自分がなにをしたいのか、そんな本能を、感じ取るのです」
 と。

「まだ若いあなたにならそれが出来るのです」
 と。
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