はるけき きみに  ー 彼方より -
「・・そう、なの」
 マシューは聞いたこともない外国の名前を言う。そこに距離を感じてしまった。

「なに? それがどうしたの」 

「あ、いえ、なんでもないわ」
 紫音は急に黙り込んだ、やがて、
「そのときは、出て行くのでしょう、あなたも」

「え?」

「あのオランダ船はあなたが乗って来た船でしょう。だからそれが出ていくのなら、いっしょに日本を離れるのだろうと思ったから」

 ずっと聞きたいことだった、それをはじめて口にした。

「・・気になるのか、それが」
 マシューがじっと紫音を見た。

「いえ、気になるなんて、そんなこと」

 見上げた彼女の瞳が揺れている。その機微を察して、
「サジットは行くかもしれない、南方の島は彼の故郷だからね。彼は家の都合で出稼ぎに来たそうだ。それでなるべく早く帰国したい事情があるらしいよ」

 以前、彼はクレイプの船には乗りたくないと言っていた。
 だが迷っている心理も見え隠れしている。
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