はるけき きみに  ー 彼方より -
「そうだね、未知の世界に漕ぎ出すのはワクワクする。言葉ではいい表せない、そんなものがあるんだ」

 あたりは夕方になっていた。
 西の方角に太陽が沈みかけている。

 彼はじっとそれを見ていた。その双眸がオレンジに染まっている。
 そして、

「・・行きたい、どこかへ。ただそれだけだ」
 つぶやくように言った。

 紫音には離れて行く彼の姿が浮かんだ。
 その日は、必ず来るのだ。

 途方もなく広い海を、遠くへ遠くへと距離をおいていく。
 そんな自分から去って行く姿だった。
 
 別れていったら二度とここに戻って来ないだろう。

 なにかを噛みしめるように紫音が黙り込む。
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